製菓男子。
「かお、あかいぜ? さそってんの?」


いつもなら見せない艶っぽい顔と、汗の匂いと、配慮するように重ねられた体重。
わたしは呼吸することを忘れ、兄を見ている。


「でも、わり。いまはむり―――」


言い切らないうちに兄はわたしの身体めがけて体重を沈めていった。
わたしの耳もとで兄の寝息が聞える。


(昨日といい、今日といい、絶対兄さん、途中からわたしとだれかを間違えてただろ)


兄は彼女が「いない」と言っていた。
おそらく今この場には「いない」という意味なんだろうと思う。


(それにしても重い。これじゃ動けない)


身を捻って抜け出そうとしても、それを拒むように兄の体重が追いかける。
まるで体温を求める子供みたいだ。
兄は子供ではないから、もしかしたら愛しいだれかを求めているのかもしれない。


しばらくじっと耐えていると、兄が勝手に寝返りを打った。
お陰でわたしは強固な腕から解放された。


起き上がり、兄を見下ろす。


(兄さんとつきあっている人って、だれなんだろう? つきあう以前に、人をすきになるって、そもそもどういうことなのか、よくわかんないけど)


机上の煮込みうどんは、冷めきっている。
なんだか今まで、夢を見ていた気分だ。
< 149 / 236 >

この作品をシェア

pagetop