製菓男子。
気分よく冷蔵庫にポカリスエットを取りに立ち上がると、玄関で物音がした。
そのあとピンポンピンポンと連続して玄関のチャイムが鳴る。
ただ事ではない様子にわたしは兄と顔を見あわせた。


兄が顎をしゃくった。
これは「見に行け」という命令だ。
わたしはしぶしぶ太陽に透けるレースカーテンを少し捲って玄関先を覗き見る。
驚いたことに、チャイムを押しているのはツバサくんだ。


「チヅル、知り合い?」
「うん」


ツバサくんの表情は泣きそうに怒っているといった感じに思えた。
口を真一文字に結んだようにきゅっとしめていて、なにかに耐えているようにも見える。


(どうしよう。わたし出たくない)


わたしがためらっている間に、チャイムからドアを叩く音に変わり、声も加わった。


「おねえさん、いるんですよね。おねえさん出てきてください」


今日が月曜日でないなら、わたしは出て行くだろう。
けれど今日は一斉応対しないと決めた日だ。


「このままだと近所迷惑になるな。知り合いならどうにかしてこい」
「どうにかって、どうやって?」
「相手はだれだかしらねーけど、チヅルに会いたがってンだろ」
「わたし今日は無理。絶対に無理」
「どうしてだ?」
「月曜日だからだよ!」


兄は今日が月曜日であるということを失念していたようだ。
< 155 / 236 >

この作品をシェア

pagetop