製菓男子。
「ああ、今日ジャンプ発売日。うっかりしてた。出るついでに買って来いよ」
「ついでってなに? わたし今日だけは絶対にいやだって言ってるでしょ。月曜日だよ? その理由、兄さんだってわかってるでしょ」


兄も骨身に染みてわかっているはずだ。
わたしが兄の手に、月曜日に触れなかったら、未遂に終わったけれど、傷害事件起こすことはなかったろう。
それ以前に、わたしが変質者にも襲われなかったかもしれない。


「じゃあ、オレに出ろって言うのか? 出てもいいけど、肩かせよ」
「ひとりで階段、下りられたでしょ?」
「食べて薬飲んだら、眠みーンだよ。だりーンだよ。無事に部屋に戻れるのかもわからん。そこで提案だ。オレを支えて玄関に行くか、ひとりで玄関に行くか、チヅルが選んでいいぞ」


(その選択だと、どのちみちわたしが行くことに変わりがないじゃないか!)


チャイム、ドアを叩く音、大声。
その三重奏が横暴に流れ続けている。


(わたし昨日、なにかわるいことをしたかな――――思い当たる節がたくさんありすぎて、返ってわからない)


荷物を持ってもらったのに簡単なお礼しかしなかったこと、さらに逃げてしまったこと。
そして、ツバサくんの願いを聞き入れなかったこと。


わたしの非力な個人性が、月曜日に招いたことに違いはなくて。
それは兄に、一斉関係ないことで。
責任は確かにわたしにあるのだけれど。


「あと十秒―――九、八、七、六……」


兄がカウントダウンをはじめた。
ゼロになったとき、兄はわたしを連れて玄関へ行くのだろう。
そしてその代償に、またなにかを求めるのだろう。
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