製菓男子。
わたしは大きく鼻から息を吸って、口から短く吐き出す。
気合を入れるように真正面を見据え、「行ってくる」と兄に告げた。
そしてリビングを出る。


「今開けるので、静かにしてください」


玄関の内鍵を開ける。
ガシャリと響き終わる前に外開きのドアが開きつんのめる。
倒れそうになるわたしをツバサくんは受け止め、両二の腕あたりを掴むと、わたしの身体を揺すった。


「おねえさん、占い師さんなんですよね? ゼンくんに予告なく制服を届けたみたいに未来がわかるんですよね? お願いです、リコの居場所を見つけてくださいっ!」
「リコ?」


ツバサくんの未来を盗み見たときに知った名前だと思い当たる。


「リコは、ぼくがロリータの格好をしてまで、会いに行っていた女の子です。その子が今朝から行方不明なんです。ぼくが、ぼくが勝手に、リコの気持ちを無視して制服を渡したから!」


ツバサくんは大きな瞳を隠すように手で覆って、肩を震わせた。
嗚咽を押し殺しながら、土下座をするように顔を床につけた。


わたしは靴箱の上にあるフォトフレームを見た。
そこには以前、唯一家族四人で行った九州旅行のときの写真が飾られている。
菜の花の黄色と天高い青空を映した風景写真だけれど、いつのまにか真新しいものになっている。
陽に焼け色褪せるたびに、兄が焼き増ししているのだろう。


(母が離婚届けを父に突きつけたのは、わたしが小学四年のとき。わたしが父に、月曜日に触れたからそんな未来を見て、そのとおりになってしまった―――兄が高校受験を控えていたのに)


わたしは月曜日が大きらいだ。
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