製菓男子。
「中学のときは明るくて、教室の中心にいるような子でした。ちょっと勝気で強引で、まわりを引っ張るような子で。ぼくとリコはいとこで幼馴染みだから特に親しくしてもらっていました。よく冷やかされてたんですよ、「姉弟みたい」だとか、「お似合いだよ」って。つきあっているわけじゃなかったけど、少なくともぼくはそれがうれしかったです。高校も同じところに行ったから、少しは進展するかななんて、下心もあったんですけど―――」


おねえさんはうちの音楽部のこと知ってますよね? と訊くので、頷く。
それで会話が成立するのだけれど、兄のために説明をする。


「音楽部って兄さんの母校でいうコーラス部のこと。うちの音楽部って、全国に行くくらい優秀なのは知ってる? だからトレーニングも陸上部以上に体育会系で、休み時間や放課後にもよく校庭を走っていて、それがとっても厳しくて、せっかく入っても辞める子も多いんだよ」


運動系が弱い高校でもあるし、母校でも唯一無二の誇れる部活であるので、所属するだけでも結構目立つ。


「平気で朝練もあるから登校時間もあわない、休み時間も練習がある―――同じ部活動の子と話す機会が自然と増えちゃって、リコのクラスに遊びに行くってこともない―――僕は毎日が楽しくて、だから、気づかなかったんです。リコが孤立していることに」


リコちゃんはとても目立つ子だったようだ。
ツバサくんより背が高く、すらっとしていて、モデルさんのような細身の容姿。
目鼻立ちがくっきりしていて、ぽってりとしている唇、官能的な顔をしているらしい。


「一年の三学期頃から、どんなきっかけかはわからないんですが、一部の女子に煙たがられちゃったみたいです。たぶん、見かけによらず男っぽい性格だったから、男子から話しかけやすいってこともあったのかもしれないんですけど、それが女子の間でおもしろくなかったんじゃないかって聞きました。“男に媚びてる”って感じで。それがいつのまにか、リコの一挙手一投足で、笑われるようになったそうです。最初はその女子間だけだったそうなのですが、いつのまにかクラス全体、そしてぼくの所属する音楽部にまで波及するようになりました」


身につまされる話に、共感しか芽生えない。
<嘲笑される→無視→いやがらせ>という三工程がありありとわたしの脳裏に浮かぶ。


「移動教室や集会でリコと挨拶を交わす機会は今までもあったんです。ぼくはリコを探すのがうまかったし、リコもそうだったんだと思います。でもそうなったと知って、ぼくはあの日リコと目をあわせなかった。友達と話していて、気づかない振りをしたんです。中学時代あんなに仲がよかったのに、本当なら味方になってやらなきゃって思うのに―――その翌日から、リコは学校に来なくなってしまったんです。後悔だらけでしたよ、たぶん、ぼくのせいだなって」
< 161 / 236 >

この作品をシェア

pagetop