製菓男子。
「リコのお母さんは家に上げてくれたんですけど、リコは会ってくれなかった。だからドア越しでいつも話しかけてました。何日も部活帰りに通って、でも埒が明かなくて。どうしたら会ってくれるんだろう。人が恐いとお母さんは言っていたから、男でも女の子でもなくて、大人でも子供でもないような、そんな人ならリコは会ってくれるんじゃないかって思いついたらつい、『男の娘になればいいんだ!』って―――言葉としてもそれが出ちゃったみたいで、そうしたらリコが笑いながらドアを開けてくれたんですよね―――そしたらもう、あとに引けなくなっちゃって」


おもしろ半分だったかもしれないけれど、「男の娘だったらいいよ」とリコちゃんから許可が出た。
そして週に一回、部活のない土曜日の午後に会うという条件も提示された。


ツバサくんは首をがっくりさせて俯いている。


「男の娘ってなに?」
「そんなこと知らないのか? って思うけど、お前化石並に世間に疎いからなぁ」


兄によると『男の娘』とは男の子なのに女の子のようにかわいらしい人を差すようだ。
それだけでなく、女装男子という言い方もあって、それはニューハーフとはまた違うそう。


(わかるような、わかんないような)


「確かにお前の背丈と顔立ちとかからすると、洒落になんない感じはするよな」


ツバサくんはわたしより背も低いし、少女漫画の登場人物みたいに目が大きい。
そして性別もどちらでも取れるような抽象的な声をしている。


「そうなんですよ! 事情話したらばーちゃんもやる気になっちゃって、ぼくのためにロリータ服をあつらえてくれるようになったんです」


そして今では「土曜日のロリータ」と都市伝説になるくらいに、存在が大きくなってしまった。


「そんなこと恥ずかしくて、もちろん同級生には言ってないですよ! でもいつかばれるんじゃないかって、ひやひやしてて」
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