製菓男子。
ツバサくんは表情をころころ変え百面相をし、身振り手振りを加えながらテンション高く話している。
ツバサくんの人柄を知らなくても、それだけでよさがわかる。
話を聞いているだけでも楽しい気分になるに違いない。
「おまえ、いじめ無縁の弄られキャラって感じだよなぁ。天然勘違い系。見ていて飽きない」
兄は「人畜無害=アホ」といった、容赦ない印象を持ったらしい。
「それで最近困ったなぁと思っていて、そんな矢先、リコのお母さんから制服の話を聞いたんです。“制服がないのよ”って。“リコは話さないからわからないけど、破られちゃったんじゃないかしら”って」
珍しく学校のジャージ姿で帰ってきた日があった。
それ以来リコちゃんは引きこもってしまったのだそうだ。
そしてその日は奇しくも、ツバサくんが無視してしまった日でもあった。
「それでぼく、単純だし、行動力があるほうだから、制服があればまた学校に行けるんじゃないかって思って。さすがに同級生には借りられないし、連絡が取れるくらいに親しい卒業生を知らないから、ゼンくんに協力してもらって、リコに持って行ったんですけど」
そのときはありがたく受け取ってもらえたのだそうだ。
「これでもう一度学校へ行ける」と。
「リコのお母さんは喜んでくれたんだけど、そのときはリコも同じように。でもどこか、リコの見せる笑顔に違和感があって。顔は笑っているのに、目が笑っていないって言うか。いやな予感がしたんですけど」
「とどめ差したな」と兄は言う。
「自覚症状がない無害な善意のほうがタチがわるい。喜ぶ母とお前を見たら、引くに引けなくなるだろ。そうでなくても、学校に行きたくないんだから」
「そうかも―――、しれません。リコはぼくが用意した制服を持ち出して、机に「ありがとう」っていう手紙を残していなくなったそうです。その知らせを受けたとき、ぼくは学校にいて、もちろん学校中を探してもリコはいなくて」
ツバサくんの人柄を知らなくても、それだけでよさがわかる。
話を聞いているだけでも楽しい気分になるに違いない。
「おまえ、いじめ無縁の弄られキャラって感じだよなぁ。天然勘違い系。見ていて飽きない」
兄は「人畜無害=アホ」といった、容赦ない印象を持ったらしい。
「それで最近困ったなぁと思っていて、そんな矢先、リコのお母さんから制服の話を聞いたんです。“制服がないのよ”って。“リコは話さないからわからないけど、破られちゃったんじゃないかしら”って」
珍しく学校のジャージ姿で帰ってきた日があった。
それ以来リコちゃんは引きこもってしまったのだそうだ。
そしてその日は奇しくも、ツバサくんが無視してしまった日でもあった。
「それでぼく、単純だし、行動力があるほうだから、制服があればまた学校に行けるんじゃないかって思って。さすがに同級生には借りられないし、連絡が取れるくらいに親しい卒業生を知らないから、ゼンくんに協力してもらって、リコに持って行ったんですけど」
そのときはありがたく受け取ってもらえたのだそうだ。
「これでもう一度学校へ行ける」と。
「リコのお母さんは喜んでくれたんだけど、そのときはリコも同じように。でもどこか、リコの見せる笑顔に違和感があって。顔は笑っているのに、目が笑っていないって言うか。いやな予感がしたんですけど」
「とどめ差したな」と兄は言う。
「自覚症状がない無害な善意のほうがタチがわるい。喜ぶ母とお前を見たら、引くに引けなくなるだろ。そうでなくても、学校に行きたくないんだから」
「そうかも―――、しれません。リコはぼくが用意した制服を持ち出して、机に「ありがとう」っていう手紙を残していなくなったそうです。その知らせを受けたとき、ぼくは学校にいて、もちろん学校中を探してもリコはいなくて」