製菓男子。
よかれと思ってやったことが結果相手を傷つける。
ツバサくんもそれを充分に理解しているのか、加速した振り子の玉ように、一気にその表情が悲しみに沈んだ。


「ぼくひとりじゃ埒が明かないから、友人たちにも頼んで、先生たちにも頼んで。あと幼い頃からリコを知っているゼンくんに探すのを頼んでいます。あと事情を知った塩谷さんにも。塩谷さんから“おねえさんに協力してもらうのはだめだ”と言われていたんですけど、もう夕方ですよ? 陽が長くなったとはいえ、もう少ししたら暮れてしまう。いやな予感しかぼくには浮かばなくて、だから、藁にもすがる気持ちで、おねえさんのところに来ました」


真摯な瞳がわたしをとらえている。
けれどその視線を真っ向から受けることができない。


「わたしは、いやなんです」
「おねえさんはさっき言ってたじゃないですか。少し先の未来が見えるって、自分から!」
「それは否定、しないです。もし、わたしが見て、そこにリコちゃんがいなかったら? わたしは、ツバサくんの不幸を、見たくないです」
「でもぼくは! もう、おねえさんに頼るしか、リコを助ける手段がわからないんです。もし、そこにリコはいなくても、そこにはいないってことだけは、はっきりわかるじゃないですか!」


ツバサくんはわたしの手に触れられる位置にいる。
けれど決して、強引にわたしに未来を見せようとはしない。
言葉で説得しようとしている。
胸が打たれて、津波のような罪悪感がわたしを襲っている。


「チヅル」


兄の声が粉砂糖のようにさらさらと降った。
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