製菓男子。
「見てやれよ」


わたしの反論を見越してか、兄は「“でも”とか“いや”とか、否定の言葉はなしだ」と続けた。


「これは命令」


振りかえると、兄はカスタードのようなとろりと甘い笑顔をしていた。


(たぶんだけど、兄さんは「命令した自分のせいにしていい」って言ってるんだ)


「涙拭ってからやれよ?」


兄の指摘で、泣いているのに気づいた。


「うん、わかった」


涙を拭う。
やっと、わたしは真正面からツバサくんの視線を受け止めることができる。


「―――触り、ますね?」


ツバサくんは息を呑んでから、わたしに手を差し出した。





< 166 / 236 >

この作品をシェア

pagetop