製菓男子。
リコは階段の踊り場、その窓もとに思いつめた表情で立っていた。
ぼくが手渡した制服を着て、中庭の向こうを眺めている。


ぼくが音楽部に入ったばかりの頃、リコはここから手を振っていたことがあった。


(「この窓からなら、音楽室がよく見えるんだ」って、教えてくれたんだよね)


どうしてぼくは忘れていたんだろう。


『――――リコ』


ぼくが声をかけるとリコは大きく身体をびくつかせ、ゆっくり振り返った。


『帰ろう』


手を差し出すと、リコは拒否するようにぼくを突き飛ばして階段を駆け上がっていく。


(音楽部なめんなよっ!)


ぼくは音楽部に入って足が速くなっていた。
届きそう、と思って手を伸ばすと、リコがもう一度手を払った。
勢いがよかったのかリコが体勢を崩す。


やっと掴んだその手を引いて、リコを抱きしめ―――ぼくの視界に天井が映って――――宙に浮いているのがわかった。





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