製菓男子。
オーブンから乳臭い、赤ちゃんみたいな香りが漂ってきた。


「ポルボローネでもよかったんだけどね。そっちはバターじゃなくて植物性の油脂を使うし、十五分くらい冷やし固めればいいだけで、そっちの方が簡単なんだけど」


おそらくわたしを落ち着かせるために、時間がかかるお菓子を選んで、作ってくれたのだと思う。
塩谷さんとの他愛ない会話は、纏っていた緊張を湯気のようにほどいてくれた。


「たまにはバターもいいね」


塩谷さんは作業台に座ってコーヒーに口をつけ、じっくりオーブンを観察している。
塩谷さんはタイマーが鳴る前に止めて、乾燥棚に天板を置いた。


「冷めるまで、ちょっと待っててね」


塩谷さんが作った“ポルボロン”というお菓子は非常に崩れやすく、スノーボールクッキーと然程工程が変わらない。
たまごを使わず、粉をじっくりローストする。
そうすることによって、独特のほろほろとろけるようなお菓子になる。
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