製菓男子。
「ヒロくんはわたしがすりきったものを、まるめてくれる、かな?」


藤波さんは少年にまで上目遣いで窺いを立てている。
少年はそれを「やるやる!」と無邪気に弾いた。


「あのっ」


藤波さんは初めて僕をまっすぐ見た。
僕は糸で縫いつけられたみたいに、その瞳から目が離せなくなる。
わずかに藤波さんが小首を傾げなかったら、我に返ることなんてできなかっただろう。
ほんの一瞬のことだったが。


僕は引き出しから軽量スプーンを取り出した。


「すげーな、ゼン。以心伝心ってやつ? うらやましいなぁ」
「ミツキが鈍いだけ」


少年に伝えた「すりきる」という表現はほかの道具にはほとんど当てはまらない。


藤波さんは小匙1の軽量スプーンを使って、生地をすくい親指ですりきった。
少年はそれを受け取ると両手で丸めて、シートを敷いた天板に並べていく。
さらに手持ち無沙汰のミツキが火の通りをよくするために、さりげなく中央を凹ませている。
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