製菓男子。
ミツキに誘われて店をはじめた当初は格段に暇だった。
そんな頃に講師の話があって、月に一度パン教室を公民館で開くことになった。
それがどういうわけだか評判になり、パン教室とお菓子教室を交互に開くまでに回数が増え、毎週のように教えるようになった。
それでも定員オーバーで、今では順番待ちとなっている。
その教室に来てくれた人や興味を持ってくれた人が店に商品を買い求め、比例するように忙しくなった。
「需要があるなら」とミツキは二階を改装し、ここでも開けるようにしてくれた。


「ゼンの作った焼き菓子を食べれば“ごめんなさい”が伝わるんじゃないかって思ったみたい。でもチヅルちゃんが『そういうのは気持ちだから、ヒロくんが作ったほうがお母さんは喜ぶんじゃないかな?』って言って。それでもヒロヒサが渋ったから、『今日だけヒロくんが店員さんになれませんか?』って、相談されたんだ」


そんな会話が交わされたのは藤波さんが材料を家に取りに行く前だという。
僕は藤波さんを外まで見送らなかったから、それを聞き逃していたようだ。


ただ僕が不思議に思っていたことが、ミツキの話で全て解消されたわけではない。
疑問は増えるばかりだ。
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