製菓男子。
「ゼン、難しい顔してんな」


ミツキが窓もとに立つ僕の隣にやってきた。
すりきり終わった藤波さんが、ミツキと代わって作業をしている。


「別に、普通」


ミツキはなにを誤解してか、喉の奥で笑った。


「ヒロヒサ、家庭環境複雑みたいよ?」


囁くように話すミツキの声は、作業しているふたりには届かない。


「お母さんと喧嘩しちゃったんだって。自分のことすっごく大切にしてくれているのがわかっているのに、“本当のお母さんじゃない”って傷つくこと言っちゃったんだって」


後妻さんらしいねと、ミツキはつけ加えた。


「そのお母さんがゼンのパン教室に以前通っていたらしくて、お菓子も食べてみたいって言ってたらしい」
「僕の?」
「公民館のほうな」


うちは製菓店だが僕の実家はパン屋。
就職口があるからと活動していなかった間に、協会の講師資格を取っていた。
紆余曲折があって、結局は家を継がなかったが。
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