製菓男子。
美容院という環境はそもそも女の園だ。
もしかしたら連行された美容院限定なのかもしれないけれど、スタッフのほとんどが女性で、お客さんも女性ばかりだった。


「あの子が特別なお客さま? あの人のせいでわたし予約取れなかったのよ!」
「きっとお金積んだのよ! いくら積めば荒川さんを独占できるの!」


その女性たちの熱い視線は数少ない男性従業員荒川シンジに注がれていて、ホストかなにかと間違われているようだった。
やはり彼も兄の友人だと痛烈に思う。


その日一日荒川さんの専属になってしまったわたしは、終始陸の孤島にいる気分になるはめになった。
まったくもって不可抗力な話なのに、値踏みするような視線を向けられ、舌打ちをされ、「ブス」という中傷も聞こえてくる。
それらが悪天候を呼び、海を荒れさせ、わたしを孤島としてしまう。


「いるだけで人にきらわれるヤツってなかなかいないよなぁ、おっもしれえの」


そんな状況を楽しんでいたのは荒川さんだった。
やっかいなことにあえてわたしの耳もとで囁くように話すものだから、その都度青ざめた悲鳴が上がる。
否応なく妬み嫉みがわたしに向かってきた。


「女って単純だよなぁ、そう思わない?」


荒川さんは定期的に周囲に愛嬌を振りまく。
目があったお客さんやスタッフに笑顔を向けて、その途端青からピンクの悲鳴に変わっていった。
< 6 / 236 >

この作品をシェア

pagetop