あなたが教えてくれた世界
どんなに耳を塞いでも止むことのない、自分の中に直接響いてくる心の声を。
自分への不満を。
(ききたくない……!!)
ぎゅっと目を瞑ったまま体勢を変えると、枕もとにあったぬいぐるみにぶつかった。
アルディスは、涙で濡れた目で、そのくまのぬいぐるみを見つめた。
いつ見ても、にっこりとした表情を崩さないぬいぐるみ。
アルディスが今ここでどんなにひどい悪口を言っても、ぬいぐるみはにっこり笑っているのだろう。
だってぬいぐるみはぬいぐるみなのだから、何を言われても意味なんてわからないのだから……。
(ぬいぐるみさんになりたい……)
相変わらず『ごめんなさい』を繰り返す頭の片隅で、アルディスはそんなことを思った。
──その日。
幼き少女の大量の涙と共に、『アルディス』は『表情』を、
自らの感情を表す術を、手放した。
〈アルディス様〉
そう、名前を呼ばれても反応しなくなり、
〈……アルディス!!〉
いつしか、ガラス細工人形とさえ呼ばれるようになった。
「……アルディス!!」
耳もとで控えめに呼ばれた名前に、アルディスは意識を取り戻した。