あなたが教えてくれた世界
その後ろ姿を見送りながら、ふと周りを見回してみると、オリビア以外の誰もが、夕食やら野宿の準備でいそいそと動き回っていることに気がついた。
誰よりも仕事が出来た使用人頭のオリビアはともかく、剣術や武術は慣れていてもこんなことは経験がなさそうな騎士達は、ところどころもめながら、わいわい準備をしている。
そうすると、動いていないのは自分だけだということを実感してしまい、
(動いた方が良いのかな……)
そんな、微かな罪悪感とともに、
ほんの少し……ほんの少しだけ、あの楽しそうな輪の中に入りたいという、羨望の念を、抱いてしまった。
(…………っ)
おかしい。今日の自分は絶対にどうかしてる。
アルディス自身が自分の感情に、戸惑いを感じていたその時。
「おせーよ、イグナス!!」
そんな事をあの茶髪の騎士に言われながら、焚き火の薪にでも使うのだろう、枝を沢山抱えた黒髪の騎士──イグナスが帰ってきた。
(…………!!!!)
その姿を視界に捉えた瞬間、反射的とも言えるスピードで、アルディスは目を反らした。
彼、だ。
今アルディスが陥っている変な感情の原因が、彼なんだと頭のどこかが告げていた。
(なん、なの……?)
心臓の音が、ドクドクと身体中を巡っている。