あなたが教えてくれた世界
同時に、彼女の“耳”は、刺すような彼の狂気を何よりも明確に感じとっている。
(嫌だ……!!)
ぎゅっと、目をつぶって、そして突然、ハッと異変に気がついた。
(どうして……!?どうしてこんなものが聴こえるの?おかしい、あり得ない。だって私は、リリアスだもの)
それに気がついた瞬間、彼女の感覚は、エリウスの腕や狂気を無視して、彼女自身の内側に向けられた。
(おかしい、読心術なんて今は使えないはず……!)
──そう。これまでアルディスが制御出来ない自分の力を、リリアスは制御出来る、いや、出来ていたはずなのだ。
だからリリアスの時に彼女が相手の心を聞いたりすることはあり得ない。……のに。
(どうして……!?)
──それは、貴方がアルディスだからよ。
突如、響いてきた冷たい声。
(だっ、誰!?誰なの!?晩餐会のときと同じ……私はリリアスよ!!)
──いいえ、貴方はリリアスなんかじゃない。弱いアルディスよ、貴方は。
(違う……!!)
必死に頭を振って、声を追い出そうとする彼女。
──どんなに自分がリリアスだと、強くなろうとしても、貴方はアルディスよ。
(嫌……!)
今度は自身の内側から逃げようと、目を開くと、そこあるはずのエリウスの深い緑色の瞳が、一瞬淡い桜色に見えた。
(これは……私の目?)
エリウスがナイフをこちらに向け、ゆっくり口を開く。
それが、先ほどまで聞こえてきた冷たい女の……自分自身の声と重なるようにして聞こえた。
『「さあ──死になさい」』
目を見開く彼女。そんな彼女の鼓膜の内側に、さらに響く声。
──さようなら、アルディス。
どこかで、甲高い少女の悲鳴がした。
それが自分自身のものだと認識出来なくなっているほどには、
・・・・・
アルディスの意識は、冷静さを失っていた。