あなたが教えてくれた世界
イグナスを狙い、まっすぐに……こちらに向かって走ってくる。
──しかし。
愚かなほどまっすぐな剣の向き。
降り下ろす動作。
(……見える……)
イグナスには、相手の次の動きはおろか、これから描かれるであろう剣の道筋まで、ゆっくりと、くっきりと見えていた。
彼はまず微塵の焦りも見せずにくるりと身体を反転させ、第一撃を避ける。
そのまま、勢いあまって飛び出し背中を見せた一人目の首筋にすばやく手刀をおろす。
そうして気を失った一人目の身体をつかみ、突っ込んできたもう一人の目の前に出すことで怯ませた。
「うわぁーっ!!」
冷静さを欠いたもう一人は、そんな大声をあげてあり得ないほどに剣を振り上げて走ってくる。
イグナスは冷静に、剣を振りすぎたことで無防備になった鳩尾に剣の柄(つか)を叩き込んだ。
ぐっ、と呻き声をあげて前のめりになった所に、とどめとばかりに背中に肘をおろすと、男は床に倒れ動かなくなった。
二人の滴が倒れる真ん中で、息一つ乱さず立っているイグナス。
「……お見事」
思わずハリスが漏らすと、彼は剣を鞘にしまいつつ「いえ」と無愛想に返事を返した。
(……"不抜のコヴァート"か……)
意識を失わせた相手の襟首を掴み、廊下の端に移動させている黒髪の騎士の後ろ姿を見ながら、ハリスは軍本部にまで流れてきていた騎士学校首席の通り名を思い浮かべていた。
剣術の授業が最も得意だというイグナスだが、同じくらいに秀でているのが動体視力と身のこなしと言われている。