あなたが教えてくれた世界
敵国ディオバウンとプラニアスの外交関係 は、こちらのそれと同じ位良好だ。
リリアスの言葉を聞いたセントハーヴェス 侯の顔が一瞬無に戻った。もちろんすぐに もとに戻ったが。
「……いや、父にはわざわざ自分の旅行記 を話すつもりはないよ」
片目をつぶりながら、同じく含みのある口 調で異国の青年は言った。
(……どういう意味?)
すぐには判断出来ずにリリアスは戸惑った 。あのウインクからも、何か裏の意味があ るのは間違いないのだが。
「それでは私は皇王陛下にご挨拶をして来 ます。失礼」
その一瞬の間のうちに彼はさっさと集団か ら抜け出し、彼女の父親のもとへと向かっ た。
(……すごい)
リリアスは驚いていた。
今まで、このような偉い人は勝手な行動を つつしむものだと思っていたのだが、その ルールを彼があっさりと犯したからである 。
しかも、それが勝手だと思われずに案外す んなりと受け入れられている事が意外だっ た。
要するに、いかに自然にやるかと言うこと なのだ。自然にすれば自然に受け入れられ る。最初に勇気をもってやってしまえば良 いのだ。
(その勇気が、私には無いんだ……)
──それじゃ、アルディスと一緒じゃない 。
リリアスが不本意ながらそう思うと同時に 、頭のどこかがそう言った。
(…………!?)
彼女の頭が不意に脳内が真っ白になる。
(な、何……?違う、私はリリアス・デ・ イルサレム)
──いや、変わってない。
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