あなたが教えてくれた世界



(変わってる!!私はアルディスとは違う!!)


──あなたはアルディスよ。


(違う!!私はリリアス・デ・イルサレムよ!! アルディスじゃない!!私はリリアス……)


リリアスは頭の声を断ち切るよう、そうひ たすらに繰り返し念じ始めた。


(………私はリリアス・デ・イルサレム。 アルディスじゃない)


最後に強く、しかしきっぱりと念じ終えた 時、リリアスは平静を取り戻していた。


それと同時に、知らぬ間に上がっていた心 拍数がもとに戻り始める。


まわりの貴族たちに悟られないように落ち 着いて見せてはいたが、服の中がぐっしょ りと濡れていた。


(どうしたんだろう、私……)


こんな事は今まで無かった。終わってみて も、思い出すとパニックを起こしそうにな る。


(……とりあえず、他人に悟られてはなら ない)


かたく心に刻む。王女がご乱心などという 噂がこちらにとって有利な筈がない。


リリアスは、それとなく集団から離れ、一 人で料理を取り始めた。


一応晩餐会である。会話より食事がメイン の筈だ。


ホールの中央部には大きな机が並び、その 上には大量の料理が並んでいる。


まだあまり使う人はいないが、奥の方には 食事用テーブルがかなりの数設置されてい た。


リリアスはトマトのゼリー寄せや牛のパイ 包みなどを少しずつ上品に皿に取り、四人 がけの席に座る。


皇王の娘の食事を安易に邪魔する輩はそう いないだろう。これでしばらくは一人で考 えられるはず。


そう判断した彼女は、とった食べ物を口に 運びつつ物思いにふけった。


(私は私である前に、イルサレム皇国第二 王女なのだ。常に王女らしく振る舞わなけ ればならない……)



        ─26─
< 26 / 274 >

この作品をシェア

pagetop