あなたが教えてくれた世界
「それは……」
リリアスは何も言えなくなってしまった。 先程の自分の言葉が全て本心からだったか らだ。
さらに追い討ちをかけるように侯爵は続け る。
「それに姫、確か、まだディオバウン王国 に嫁ぎたくないとおっしゃっていたような ……」
「それは、まだ私自身が未熟だからです。 ここで成長してからが良いと思っているだ けです」
これには盛大に反論する。先ほど言えなか った言葉だ。
しかし、侯爵は平静そのものだった。
「それならなおさら、あなたはこの計画に 反対する理由がないはずだ。王宮を出るの は、信じられない位の勉強になるのですよ 」
「…………」
彼女は言葉をつまらせた。
「少し社会に出て勉強し、そのあとディオ バウンに嫁ぐなら嫁ぐ。そう考えれば良い だろう」
「……でも……」
確かに侯爵の言った通りに考えれば彼女の もやもやも晴れるだろう。だが、それはた だ自分を誤魔化しているだけになるのでは ないか。
国が大変な時に、何の役にもたたずに逃避 行するなんていやだった。
(でも、そう考えて計画に反対する事こそ がお父様を邪魔している事になるのかもし れない……)
と、その時、それまで黙っていたフレグリ オが口を開いた。
「……アルディス、もしお前があちらの妃 になって戦争が終わったとしても、私は一 生後悔に苛まれながら生きていくのだろう 」
それは、とても重々しい口調だった。
それまでと様子が違う彼に、リリアスやレ オドルも思わずそちらを向いた。
「お前は私の最後の希望だ。和平のしるし などに利用したくはない。それなら私は、 この地のどこかでお前が元気に生きている と信じて、ここで頑張りたいのだ」
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