エリート外科医の甘い独占愛
だって今、私の心の中には卓志しかいないから。
私は小さく首を振る。
伊崎先生の表情が曇っていくのを静かに見つめながら言った。
「ごめんなさい。今、お付き合いしている人がいるんです」
「……そうですか」
先生はそう言と、私の手を掴んで、むりやり傘の柄を握らせた。
「傘、使ってください」
そう言うと、伊崎先生は突然走りだした。
「あの、でもっ」
追いかけようとしたけれど、目の前で赤に変わった歩行者用信号に阻まれてしまった。
暗闇に溶ける様に、どんどん小さくなるその背中に向かって、私は深々と頭を下げた。