エリート外科医の甘い独占愛
「入ってください」
「え」
伊崎先生は、私の体を引き入れるとガチャリと内鍵をかけた。
湿った空気が体に纏わりついて一気に不快感が増す。
「邪魔が入らない場所、ここしか思い浮かばなかったんです。腕、痛くなかったですか?」
伊崎先生は掴んでいた手の力を緩めた。
こんな状況で気遣われても、素直にハイなんて言えるわけがない。
黙ったままの私を見つめて、先生は深いため息を吐いた。
「……あれからまだ、広岡先生と続いているんですね?」
そう尋ねられて失望したと言ったのはそういうことかと納得した。
「卓志がそう言ったんですね」
「いや、広岡先生からはなにも。僕との会話の中では、あの日のマンションのことですら触れようとはしませんから。でも、言わなくても僕には分かります。ほんと、あなたって人は、どうして僕と付き合っていると嘘をつきとおさなかったのか……」
確かに私は賢い生き方をしていない。
伊崎先生は私に不倫という背徳の関係に終止符を打つチャンスをくれた。
それを無駄にしたのだから、そう言われても仕方ない。
けれど私にはそうすることが出来なかった。
卓志との関係を、あんな嘘で断つことなんて出来なかったんだ。