みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
我が社から彼がいなくなれば、私が消えるよりもはるかに損失が大きい。そんな不安はあっさりと解消されて安堵した。
頬からそっと手を離した彼は、私をジッと見つめて「それに」と言葉を継いだ。
「――いつの間にかトップに立つことより、貴女と過ごす時間を望んでいました。
まあ、そちらは違ったようですが」
「そ、そんなの言ってくれたら…!」
「言ったら?」
不満げな黒い瞳でこちらを見つめる早水。今まで見せなかった部分に触れると、こちらが折れたくなるとは想定外だ。
「……ううん、私の方が悪いわ。
今までありがとう。それと、これからずっともっと一緒にいて」
でも、伝えるのって悪くない。彼の穏やかな笑みを前に、心はいつになく晴れ晴れとしている。
言わなくて後悔するのはもう嫌。あんなサイテーな気分は1日で十分だ!
“もちろん”の言葉の代わりに降って来たのは、早水からの軽いキス。
肝心のフレーズはここでは言わない。だって、ここは私たちの戦場だから。