みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「そのまま俺にポストを与えて引退するにも時期尚早。そこで、俺の父に株式譲渡して一時的な経営を依頼することになりました。
――が、そこに貴女が待ったをかけたのです」
「……すみませんね」
あの時に父が株を譲ろうとしていたのは、本当に信頼のおける人だったのか。
何も知らなかったとはいえ、喚き散らした7年前を思うと居た堪れなさで視線を泳がせた。
「賢いクセに信じられないドジで、考えられないような行動をして失敗を仕出かして、正直これで会社を背負えるのか不安だった」
「……でしょうね。よく分かりますよ」
「ただ貴女の持つ負けん気の強さと優しさに気づくと、癒されている自分がいました。
愚痴もろくに吐けずに、すべてにおいて不器用なまりかさんだからでしょうが。
――当時、付き合っていた彼女と別れるくらいには填まったらしい」
「……あんなに忙しくて彼女いたのね」
「そこですか」と、破顔一笑する彼につられて私もくすりと笑う。
「でも、ちょっと待って。父が言った“好きにしていい”ってどういうこと?」
「ああ、会社を辞めるにしても、貴女と結婚しても何でも構わないと」
サラッと言いのける早水に目を丸くし、「辞めるの!?」と問い質す。
「フッ、仕事と部下を放り投げるほど無責任ではありません」