みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
ただ万人受けというより、一部のマニアに熱烈に惚れられそうな感じ。目の前の男が良い例だ。
何を考えているかよく分からなかったけど、真面目で実直な子であるのは確か。
出勤ラストの日に挨拶はかわしたし、別にそれ以上のことをしないで構わないのに。
その後わざわざお礼の電話をくれた点は礼儀正しいし、性格だって悪くないと思う。
英語にスペイン語だってペラペラ。頭の回転も速くて、社長や取引先等とウィットに富んだ会話が出来る。
何より、“この性悪男”が直属の部下として彼女を熱心に指導していたのだから。
存在感が薄いようでいて、実は誰からも頼りにされている。メイクでいえば、一度その優秀さを知ったら必需品のコンシーラー、まさにそんな感じ。
自分のことは滅多に話さなくてプライベートは謎。笑顔で人を寄せつけない不思議な子だった。
いや、だから人を惹きつけるのか?……ていうか彼女、実はモテてたんだよね。悔しいくらいに。
「で?本人にも連絡出来ないくらい、アンタって意気地なしなわけ?
――ああ、半年も動けなかったんだもん、仕方ないか」