みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
恐怖と苦しさで泣きじゃくりながら、一方でこの時期に判って良かったと思う自身がいた。
つい最近まで当たり前に過ぎていた日常。それが崩れるのはあまりにも呆気ない。
だったら今の私が出来ることって、あとは何?そんなのひとつしかなかった……。
ようやく泣きやんだのは、叶との電話から1時間後のこと。瞼は腫れたのか、やけに重く感じる。
起き上がってカーテンを引けば、窓の向こうは夜の静けさと明るい街並みのコントラストを映していた。
手にしていた携帯電話を操作し、目当てのアドレスを見つけてコールを鳴らす。
「透子、珍しいな。どうした?」
「――皇人先輩、…いま大丈夫ですか?」
東京の賑やかでいて寂しさを募らせる景色を見ながら、電話相手の皇人先輩に話を切り出した。
誰よりも優しい叶は、私が病気だと知ったら絶対に帰国を速めてしまう。
彼を誰よりも分かっているつもりだから、静かに先手を打つしかないの。
ひどい女だと蔑まれた方が良い。恨まれるのは目に見えてるし、それがベスト。
彼が幸せになるためにも。どうか私のことは憎んで憎んで、許さないで欲しい。