みだりな逢瀬-それぞれの刹那-



「――社長、如何なされましたか?」

プレジデントチェアのひじ掛けに肘を乗せながら物想いに耽っていると、ドアの向こうからかけられた声で我に返る。


「……ああ悪い、どうぞ」


「失礼いたします」と扉を開けて入室してきたのは、第二秘書の間宮さんだ。


デスクを挟んだ向こう側に立つ彼女をジッと見ていると、次第に不審な顔つきに変わった。



「私の顔に何かついてます?」

まさに見当違い。だが、どこか古めかしいメガネの奥の眼差しは珍しく困惑の色を滲ませている。


「…いや。今日の間宮さんは色気を存分に放っているなとね」

「苛立ちを存分に含んでいますのをお忘れなく」

「フッ、容赦ないね」

このやり取りは不遜な態度と思われるかもしれないが。嫌味が嫌味にならないところは、彼女の絶妙なトーク・センスだろう。



透子が亡くなってもう4年。――なぜ懐古することが増えたのかと思っていたが、今この瞬間ようやく合点した。


「お褒め頂きありがとうございます」

ほんの時おり、普段は無表情な間宮さんが笑った瞬間、どうしてか透子と重なって映るからだと。



その理由を知るのはまだ先のこと。ただし、彼女に抱く感情を自覚するのは、そんなに遠くはないらしい……。


 #【5】嘘つきな涙★終



叶さんが【4】の直後に透子さんから別れを告げられてからのSSでした。

時系列としては上記の通りですが、みだり~本編当初より1年ほど前になります。


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