みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
“プライベート”をひと言でも口にしたら、貴方が離れていくのは目に見えていた。
だから、今日もまたすべて知らないフリをして戦うだけ。このままで良いと。
「お疲れさまでした」
そのひと言とともにスッと席を立つ。予定より5分押してしまったため、内心はひやひやものである。
返ってきた声は背中で受け止め、そのまま部屋をあとにした。コツコツ、とヒール音が辺りにせわしく鳴り響くのはご愛敬。
「あと3分で出ますよ」
そんな私にもっとと急かすのは、MD(マーチャン・ダイザー)トップ及び私の子守りも兼ねている早水(はやみ)だ。
「分かってます」
隣を歩くその男にツンとした声で返したものの、少しスピード・アップする。
この調子だと、クロエの新作靴もすぐにヒールが傷むこと請け合いだ。
やってきたエレベーターに素早く乗り込み、15階のボタンをなんとか押す。