夜桜と朧月
それを見兼ねたのはお父さんだった。


「……子供達には、今の環境が幸せなんだろう。余計なお節介で子供達の幸せを奪っても酷だ。その話は、今は無かった事にしよう」



お母さんは諦めきれない様子だったが、怒りが治まらない薫を見て、挨拶もそこそこに辞していった。



子供達の初節句だったのに。


なんでこんな事になっちゃったんだろ。


折角咲希と多希のお爺ちゃんお婆ちゃんが訪ねて来てくれたのに、一緒にお祝いしてあげられないなんて。




薫の機嫌がなかなか直らないのでご機嫌取りは最早諦めて、私と子供達は近所のスーパーに、雛祭りのための刺身と予約していたケーキを買いに行くことにした。


私達が家を出る時にもまだ薫は不貞腐れていて、本当にもうお手上げだ。




スーパーで買い物をして、時間潰しのために(あんまり早く帰って薫の機嫌が直っていなくても困るので)近接して建っている花屋にふらりと寄ってみると、色とりどりの花が私達を迎えてくれた。



やだな。お雛様にお花飾って無かった。



桃の花と菜の花、それに桜の花を束にして貰おうかな。


双子達は、スイートピーやチューリップ、バラなど目立つ花にばかり目を奪われていた。確かに桃の花とか地味だけどね。


でも一応主役だからね、桃の花。霞草よりバリバリ自己主張してるからね。



今夜の雛祭りに必要な物を買い揃え、家に着くとまだ不機嫌そうな薫が居間で寝転がっていた。


……本当に寝てるのかな?

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