夜桜と朧月
「……日帰りで近場の温泉ぐらいなら…」

「行かなくていいよ。それより、家で誕生会やる方がいいなー」

「でも、咲希達、まだ温泉連れてった事無いんだよなー…」



でも、近場の温泉と言ったら場所は限られているけど。


「あ、本あったあった」



旅行誌を見つけた薫がパラパラとページを捲る。


「……これ、いいな」


ある1ページで手を止めた薫の方を窺った。



「何かあった?」

「ん。温泉施設の熱を利用して、隣のハウスで苺栽培やってるとこ。温泉に入って苺狩りができるらしい」

「でも、入場料高くない?そういうとこ」



自分の誕生日だからって、あんまり無駄遣いされても何だし。



「乳幼児は無料だし。いいんじゃね?」



そのページに付箋を貼ると、薫は旅行誌をぽんと投げた。連れてってくれるのかな?


「本当に行くの?」

「ん」

「……じゃあ私、おべんと作る」



お弁当は苦手だけど。彩りよく上手に詰めれないから。


「そうしてくれると、嬉しい」


薫の一言で、私の誕生日は温泉で過ごす事に決まった。



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