奪取―[Berry's版]
 着物の話題に及んだことで、眸の輝きを取り戻した絹江を前に。喜多は柔らかい笑みを返す。
 喜多との、懐かしくも弾む会話の中で。絹江はふと気付いた。自身の肩から余計な力が抜けていることに。断ることが前提ではあったものの、初めてのお見合いには変わりない。絹江自身が気付かぬうちに緊張していたことは明白だった。お気に入りの訪問着を選んだことが、その良い証拠になるだろう。
 だが、気乗りしない祖母に勧められた見合いは。図らずも思いがけない再会を招いてくれた。心の中で、話を持ってきた祖母へ感謝の言葉を送ると同時に。絹江は自身の現金さに苦笑してもいたのだった。

 絹江と喜多が初めて会ったのは、ふたりが大学生のときだ。

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