奪取―[Berry's版]
13.変化
 絹江の毎日は、長襦袢に襟芯を通すところから始まっていた。少なくとも、1ヶ月ほど前までは。確かに十数年間続く絹江の習慣となっていたはずであった。しかし、絹江本人が望まぬところで。更には一方的な誰かの作為によって。絹江の朝は随分と大きく、変貌を遂げ始めていた。

 絹江の朝の目覚めを助けるのは、予定時刻に鳴り始める携帯電話のアラーム音だ。スムーズ機能をも兼ね備えたそれは、絹江がすっかり起床するまで止まることはない。二度寝が珍しくない絹江には、非常にありがたい機能でもある。だが、最近ではそれも珍しい――いや、難しい。何故なら、アラーム音よりも早く、絹江を起こそうと試みる人物がすぐ傍にいるからだった。
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