奪取―[Berry's版]
 少し掠れた、とろりと蜂蜜のような光沢と匂いを纏っている喜多の声。喜多がふざけている訳ではなく、絹江をからかっている訳でもない朝の挨拶。開眼と共に浴びせられる言葉は、一度ですっかりと絹江を覚醒させてしまう威力を持っていた。新しい目覚まし時計代わりだと考えれば、非常に優秀なのだろうが。
 この一日の始まりを、絹江は未だに慣れない。

 更に、絹江は他人とベッドを共にすることにも慣れてはいなかった。他人と肌を重ねることも久しかった絹江にとっては、慣れていなくとも無理はない。それが理由であるのか、単なる絹江の癖なのか。判断は難しいところであるが、絹江はいつも喜多に背中を向け夢の世界へ旅立ってしまう。眸を閉じたときには、喜多の胸に頭を無理やり預けていたはずが、目覚めたときは逃げるように背中を向けているのだ。
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