奪取―[Berry's版]
 従兄弟である箕浪が、完全に本社の仕事から手を引いたことも、仕事量増加に少なからず影響は受けていた。それでも、事前に相談を受け、彼の父親である会長に気付けれぬよう協力を惜しまなかった喜多にとっては。捌けない問題でも、量でもない。 
 仕事に追われ、息抜きを忘れてしまうほど。自身の能力は低くないと、喜多は自負している。

 扉の向こう側で控えている秘書へ連絡を入れるため、喜多はデスク端に置かれた電話の受話器を取る。すでに事情を把握している秘書は、喜多の言葉を聞いても、それ以上を追求することはない。

 椅子が悲鳴を上げるほどに、喜多は背もたれに身体を預けた。天井を見上げ、目頭を押さえて。この後の予定を思い浮かべた喜多から、大きなため息と、言葉が無意識に零れる。
 ――面倒だな……と。
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