奪取―[Berry's版]
 胸で燻る思いを、即行動へ移すには。勇気もきっかけも、今の絹江には足りない。今更ではあるが。理由がなくては飛び込むことすら出来ない今の自分に、絹江はもう若くないのだとしみじみと感じていた。
 大きなため息をひとつ零してから、絹江はそれを元の場所へと再び戻す。ロッカーへ鞄を収めてから。両手に力を込め、扉を押すと。絹江の心を表すかのような荒々しい金属音と共に、それは閉まったのだった。
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