奪取―[Berry's版]
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 一心不乱に、タイピングを続けている喜多の目の前に、湯気の立ち込めるカップが置かれる。視線を上げると、見慣れた顔の秘書が立っていた。感謝の言葉を伝え、喜多はそれへ手を伸ばす。日が随分と長くなってきたはずなのだが、外は暗く、既に西へ姿を消した後だった。
 現在の時刻を確認しようと、喜多は視線を彷徨わせる。そこには、未だ立ち去ろうとしない秘書の姿があった。
 疲れた喜多の身体を程よく温めてくれる紅茶をひとくち流し込んでから、喜多は問う。

「どうした、何かあったか?」
「喜多本部長。本日予定しておりました退社時刻を過ぎております」

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