奪取―[Berry's版]
 一瞬驚きはしたものの、同時に香る匂いと体温に、絹江の胸には安堵感が広がる。彼女の手元を覗き込むように顔を傾げて、喜多は問いかけた。

「衣替え?」
「そう。丸洗いに出してから、自宅へ置いてこようと思って」

 俺も手伝おうか?と続ける喜多の言葉を断り、絹江は黙々と手を動かし続ける。
 空調の整っているこの部屋では、常に温度は快適に保たれているはずなのだが。隙間もないほど、喜多に抱き寄せられているせいなのか。耳元へ微かにかかる喜多の吐息のせいなのか。絹江の肌は俄かに汗ばみ始めていた。同時に、熱を帯びる頬へ手の甲を当て、絹江は息を吐く。

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