奪取―[Berry's版]
「たぶん、鈴音|《すずね》の匂いだな。いつも、香水がきついんだ。今度注意しておく」
「……そう」

 喜多の答えを聞き、一応の納得した様を見せはしたものの。『鈴音』と言う聞いたことのない女性の名前も。残り香を身に纏ってしまうほどに長時間、その人物と身近にいたということも。何故か、絹江の胸をざわつかせていた。しかし、その問いを喜多へぶつけるほどのことではない。
 胸に渦巻く、表現しがたい感情を誤魔化すように。喜多から視線を逸らし、絹江は足早に、彼の前を通しすぎたのだった。

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