奪取―[Berry's版]
 絹江が知る喜多は、今まで香水などの匂いを纏っていたことはない。再会した最近も変わってはいないはずだ。それは、彼の両親の仕事の影響も大きいだろうと、絹江は思っていた。着物に、匂いが移らないように――と。お客を出迎える意味で、仄かなお香を焚くことはあってもだ。
 足を止めた絹江を不思議に思う喜多が、首をかしげた。喜多の意図を理解した絹江は、疑問を口にする。

「喜多くん、香水付けてるの?珍しい」
「……香水?俺は付けていないけれど」
「でも、匂いがする。柑橘系の、さっぱりした感じの」

 喜多が、ワイシャツの襟首を掴み匂いを確認し、ああと納得の言葉を漏らす。

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