奪取―[Berry's版]
先ほど、香水を嗅いだときに感じた胸のざわめきを思い出せば。むしろ、少なくない割合で愛情だってある……かもしれない。だがそれは――と、無意味なループに飲まれそうになったとき、絹江は思い出す。先ほど、喜多が口にした女性の名前を。

「喜多くん、彼女いるんでしょ?」
「は?突然だな。いないよ」
「うそ。『鈴音』さんは?香水が移るほど一緒にいる女性なのに。彼女ではないってだけ?」

 絹江の言葉を聞き、喜多は顔を綻ばせ唇を寄せた。両掌で絹江の頬を包み込み、貪る。絡みつき、所狭しと口腔内を愛撫する喜多の舌に、若干の息苦しさを感じ始めた頃。喜多の唇が名残惜しげに、絹江のそれから離れていった。

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