奪取―[Berry's版]
 夫婦となるならば、性行為はもちろん当たり前だろう。だが、絹江にとってはそれが大問題なのだ。夫婦生活のない結婚ならば、考える余地もあるが。そんな結婚を承知する男性など、どこを探しても居ないことだろうから。

「あの」

 思いにふけていた絹江は、背後からの声に反応し振り返った。そして、息を呑む。見知った人物がそこには居たからだ。一瞬訪れる、互いを見つめ合いながらの沈黙。絹江は頭に浮かんだ名前を口に出す。

「もしかして……喜多くん?」

 絹江の言葉に、相手の男性は眸を細める。ゆっくりとした足取りで、男性は絹江の前にあるソファーに腰を下ろした。

「覚えててくれたんだね、良かった」
「もちろんよ。いやだ、懐かしい。何年ぶり?」
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