富士山からの脱出
平成関東震災
火砕流に飲み込まれた駐車場は3階建で屋上にも車を止められる構造である。
1階から屋上まで通じる階段だけは壁で遮蔽されているため、火砕流から逃れることができたのだ。
快晴達は、その3階にいる。
「お父さ~ん!」
快晴が大きな声で呼んでみるが自分の声が反響するだけで返事はない。
前に進むとライトの明かりがドアノブを照らし出した。
快晴がドアを開けようとドアノブに手をかける。
「熱っ!!」
外は火砕流のエネルギーで灼熱なのだ!
(外には行けないな)快晴はあきらめた。

ライトを下側の階段に向けて少し降りたときである。
(ドドドドドドッ)(ドドンッドドンッドンッ)
地鳴りと共に地面が激しく揺れ始めた。
最初は突き上げるような縦揺れである。
そして数秒後、恐ろしい横揺れが襲った。
(ギシギシギシギシッ)
駐車場全体が悲鳴をあげて金属が擦れる音が聞こえる。
この駐車場がどこまで耐えられるのかは誰にも分からない。

千夏と香織は座っているがそれでも転げそうである。
二人は両手を床につけて踏ん張っていた。
「快晴、大丈夫」千夏は叫んだが声になったのか自分でも分からない。
(早く終わって!)千夏の思いとは関係なく揺れが続く。
5秒、10秒、15秒・・・・
(何なのこの地震!?)香織の顔が恐怖でこわばっていく。
座っていても体がずれる程の揺れなのだ。

(あ~っ!)
千夏は快晴の声が聞こえたような気がしたが、暗くて良く見えない。
「快晴!」今度は本当に大きな声で呼んでみた。
「・・・・」
しかし、聞こえるのはギシギシという金属音と地鳴りだけだ。
「快晴、大丈夫!?」
しかし、返事がない。
千夏は快晴に駆け寄りたいが動くことが出来ないでいる。
地震が収まったのは20秒後である。
少しづつであるが揺れがゆっくりとした周期に変わった。

ついにその時が来てしまったのだ。
後に"平成関東震災"と名付けられる地震である。
震源は相模トラフの西側、相模湾沖30km付近でマグニチュードは8.5である。
地震の影響で富士山が噴火すると言っていた御用学者の見識は全て外れたのである。
良く考えれば分かることであった。
雲仙普賢岳以降に5回火山が噴火しているが全て地震とは関係ないのである。
そして今回は富士山の噴火によって地震が誘発されたのかも知れない。
地震後30分で関東に緊急事態宣言が発令されたが、千夏は知る術もない。
それよりも快晴の方が大事である。

「快晴、返事して!」千夏が叫びながら階段へと這っている。
下り階段まで来たが快晴の姿を見つけることはできない。
もう一度「快晴!」階段の下に向かって叫んだ。
3メートル先には踊り場があるのだが真っ暗で何も見えない。
千夏はiPhoneのライトアプリのスイッチを入れた。。
ライトの向きを階下の踊り場に向けると人が倒れている。
(快晴だ!)
快晴は地震の揺れで階下に転げ落ちたのだ。

千夏はライトの明かりを頼りに一段づつ階段を下りて行く。
「快晴、今行くからね」
聞こえていないと分かっても声を掛けてしまう。
(ドドドドドドッ)
また地震だ!
(やめて~!)
千夏は泣きたくなった。
すぐそこに快晴がいるのに一歩も動けない。
千夏の願いを無視して地面が大きく横に揺れている。
(いったい、いつ終わるの)
千夏は意を決っして自分から階段を転げ落ちた。
地震の揺れは収まっていないが、やっと快晴のもとにたどり着いたのである。
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