富士山からの脱出
翔のまぶた
「あいたたっ!」
千夏は快晴の真横に転がり落ちた。
「快晴!」
千夏は優しく揺さぶりながら快晴に声を掛けた。
怪我はしていないように見える。
「お母さん、ありがとう」快晴は直ぐに気がついた。
「快晴、大丈夫?」
「頭を打ったけど大丈夫だよ。真っ暗で何も見えなかったから怖かったけど」
「お母さんは?」
「大丈夫よ」千夏は無理に笑顔を作って見せる。

「大丈夫ですか?」上から香織の声がした。
「大丈夫よ。香織ちゃんは?」
「大丈夫です。地震は収まりましたね」
千夏と快晴は余震が収まったことに初めて気づいた。
「私もお手伝いしましょうか?」
(これ以上、怪我人が増えたら大変)千夏はそんなことを考えながら返事をする。
「暗くて危ないから、そこから動かないで」
「はい」香織は素直に従った。

「僕は大丈夫だから、お父さんを探して!iPhoneを落としたみたいだからライトがないんだ」
「分かった、快晴は急いでiPhoneを探して」
千夏がライトを奥に向けた瞬間!
「翔!」
千夏が翔を見つけた。翔は真横にいたのだ。
「お父さん!」快晴が駆け寄る。
しかし、二人で声を掛けるがピクリとも動かない。
ライトを近づけて良く見ると顔から血が流れている。
「大変!」千夏の顔が青ざめていく。
「お母さん、ライトを買して」
快晴がライトを受け取り、明かりを翔に近づけた。
「まぶたの上が切れてる!他には右手も怪我してるみたいだ!」
「大丈夫?」千夏が泣きそうな顔で聞く。
「分からないよ」

快晴が翔の心臓に自分の耳を近づける。
「生きてるよね、快晴」
「静かに!」真剣な顔で快晴が答える。
そして「大丈夫」快晴が呟く。
「大丈夫って、生きてるの?」
「生きてる」快晴がしっかりと答えた。
「本当に生きてるの!良かった」
千夏の目からはいつの間にか涙が溢れていた。

「快晴、何か持ってない」
快晴がポケットに手を入れてウェットティシュを取り出した。
カート場で貰ったものだ。
「貸して」
千夏はウェットティッシュを受け取って封を切り、翔の目にウェットティッシュをのせた。
「翔!目を開けて!」もう一度、声を掛けた。
すると翔の手が少しだけ反応したように見えた。
快晴が翔の手を握って「おとうさん!目を開けて!」
「う・・・うっ」
翔のまぶたがゆっくりと反応して目が開いたのだ。
「お父さん、良かった!」
翔が気が付いたときには、両手が千夏と快晴に握られていた。
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