吸血鬼は淫らな舞台を見る


 寂しい峠を抜けると田園風景が延々と続き、長いトンネルを通って奇異な懸崖(けんがい)の海岸線をしばらく走り、山と海に挟まれた小さな町に行き着いた。


「ここが四那土(しなど)町だ」


 大きな都市以外はいまだに旧日本国時代の町名が残っている地域が多く、サトウは若い頃住んでいた町を懐かしむことができた。


 町の名前が英語表記に変わっていたら同じ気持ちでいられたかは疑問だ。


 隣町との境界線でもある川幅17メートルの河川敷が見えるとサトウは車のスピードを緩める。
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