あの頃…

実は一番近くにいる彼女

降り立ったそこは、見慣れた街並みよりも少し人通りが多い

しるふが今いる病院から電車に乗ること30分

平日なこともあって視界に入る人たちはみなスーツ姿

その中をビルを見上げつつ、方向を確認しつつ進むとある市民ホール

「救命と災害を考える」

そんなタイトルが掲示板に踊っている

案内板の通りに進むが内容が一種の業界人向けのためか人の流れはない

光に照らされた階段を上ると受付に立つスーツ姿の二人組

「こんにちは」

こちらに記帳をお願いします

置かれたペンをとり、名前を書きながらふと視線を横に滑らすと

黒崎海斗

記帳欄の3番目で視線が止まる

数か月で見慣れに見慣れてしまった文字の並び

間違えるはずのない読み易い文字

来てるんだ

そう思って胸を満たすのは素直な喜び

黒崎病院から離れてすでに数か月

その声を聞いたのは一度黒崎病院に電話をした時だけ

電話口から彼の落ち着いた声が聞こえた来た瞬間、思わず電話を握りしめたのはしるふだけだ
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