Bloom ─ブルーム─
「つーかさ、迎えに来てよ。そしたら遅刻にならなかったのに」

ドキッとした。

迎えに来て、だなんて。

「だ、だって、何時に家を出るか知らないし」

「じゃあ電話してよ」

「電話番号知りません」

どこまでが本気で、どこからふざけてるのかわかんない。

冗談なのか、真面目なのか。

笑って交わせばいいのか、素直に気持ちぶつけちゃっていいのか、わかんなくなる。

「あれ?教えてなかったっけ?」

「はい」

あれ?そうだっけ?なんて言いながらポケットを探る先輩。

スマホ探してるのかな。

番号教えてくれるのかな?

でも番号なんてもらったら、本当に携帯を手放せなくなってしまう。

「あ、自転車の鍵、返すの忘れてました」

ドキドキした気持ちを見透かされるのが怖くて、慌てて話を切り替えた。

期待するな、私。

この忘れん坊大将の気まぐれ、期待するだけ無駄。

ポケットから鍵を取り出すと、大樹先輩に差し出す。

「ん?あー……持ってて?」

「へ?」

「なくしたら困るから」

「……」

「あ、やべっ、2時間目始まっちゃうな。急がなきゃ」

見つかったスマホの時計を見て慌てる先輩。

ほら、やっぱり番号なんて教える気ないじゃん。

けど、じゃあなんで?

なんでこの鍵、私に預けるの?

持ってていいの?

期待しちゃうじゃん。

大樹先輩の背中を追いかけて屋上を出ると、下の階から賑やかな笑い声が聞こえてきた。

先に階段を下りてく先輩と、少し遅れて歩く私。

「じゃあね」

振り返ってそう言う大樹先輩の顔が、前より少しだけ優しく見えた。

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