Bloom ─ブルーム─
「いいえ、こちらこそ」

でも、彼は私の口調に合わせてピッと気をつけをして、深々と頭を下げてきた。

そして、その体勢のまま「無事で良かった」なんて、私の顔を覗きこむようにして見上げる。

可愛い──。

乱暴とか馬鹿とか、かっこいいとか逞しいとか、男の人に対する形容詞をそんなんしか知らなかった私にとって、初めての感覚。

さっきの挑発的なボーカルとは別人なんじゃないかとさえ思ってしまう。

できることなら、目の前で笑うこの彼を、こっそりカバンの中に詰めて持ち帰りたい。

いや、犯罪でしょ。

自分の妄想に自分でツッコミを入れたとき

「あ、そうだ!スマホ!」

突然何かを思い出したように、彼が大声をあげた。

そして、手に持っていた荷物を私に手渡すと、

「すぐ戻るから、ちょっとこれ預かってて?」

と言い残して階段をかけ下りて行ってしまう。

私の手には、彼の荷物である、A4のノートと、ブルーのペンケースと、屋上の鍵。

な、何?この展開?

突然受け取った荷物をどうする事もできず、受け取った状態のまま立ち尽くすしかない。

ふと目を落とすと、ノートの表紙にもペンケースにも、2年3組 長谷川 大樹 と、マジックで大きく書かれている。

フツー高2にもなって、こんなに堂々と名前書くかな。

「だいき?たいき?」

ふとさっきの黄色い歓声を思い出した。

「だい!」「だいちゃん!」って言われてたっけ。

「はせがわ……だいき……か」

知った彼の名前を、私の中で、“ボーカルの人”から変換した。
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