Bloom ─ブルーム─
「送るよ」

それが、どれほど残酷なことなのか知っててこの人はそんな台詞を口にしてるんだろうか。

「いいです」

私は掴まれた手を振りほどいて歩き出した。

なのに、何度振りほどいてもすぐに捕まる左手首。

「離してくださいっ!」

半ば叫ぶように大樹先輩に向き合ってその手を振りほどこうとした時。

「ごめん」

悲しそうな彼がそこにいることに気づいた。

どうして?

どうして先輩がそんな顔をするの?

どうして謝るの?

「ごめん……」

謝るしかできない先輩は、掠れた声を振り絞る。

それって、何に対する『ごめん』?

ナナさんを好きでごめん?

私の気持ちに応えられなくてごめん?

思わせぶりしてごめん?

どれにしたって、この状況でもらう『ごめん』の切ないことったらない。

「ごめん」

繰り返される「ごめん」は私にとって拷問でしかない。

「や、やだな、先輩何か勘違いしてません?謝ることなんか何もないのに」

そしたら、無理矢理でも笑顔を張り付けて、この謝罪を終わらせるしかないじゃない。

顔をあげた先輩はそれでも苦しそうな顔を見せる。

でも、気づいてしまった。

先輩の片手には、さっき私が渡したチラシがしっかり握られていることに。

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